海と、地元を失うことについて

 

 

 


‪好きなものを思いつく順で、適当に羅列してみようと思います。‬

 

 

ウミネコ、曇っている日の水平線、古びたトンネル、ウニ、ヒトデの皮膚の感触、クラゲの死体、人間によく懐いた野良猫、防波堤、テトラポット、木の生えている岩、ボロボロの舟、ひとのいない砂浜、波の音、海水の味、寒い日の甘酒、柔らかい雪、かまくら、扇風機のかわいた羽の音、小さな蟹‬

 

 

‪さっき、海を見てきたからかなり偏った結果になってしまいました。いま羅列した好きなものは、むかし住んでいた岩手の町にはすべてあって、いま自分が住んでいる東京の町にはあまりない。

もしも誰かに、岩手にあって東京にないものなーんだ?と言われたら、これを答えてみてください。‬東京のコンクリートジャングルのなか、クラゲの死体があっても100中100人がビニール袋だと思うだろうな。

東京には何でもあるようでないものもちゃんとある。岩手から上京するとき、東京には天狗もいないし河童もいないなんて誰にも訊いていなかったから、ひどく驚いた記憶がある。

 

 

むかし住んでいた岩手県宮古という海の見える町に行ってきた。自分は幼少期を宮古と大槌という場所ですごした。どちらも岩手の沿岸の町で、とても感じのいい場所だったが、小学生のときに引っ越してしまったので、知り合いはほとんどいないし実家もない。だから帰省というよりは観光のほうが近いような気がする。不思議だね。

 

 

たまに、いまとは別の人生のことを考える。自分はかなりいい加減だから、いまと全く別の人生を生きたとしても、こんなの自分らしくないとは思わないと思う。男でも女でもどっちでもいいし、貧乏でも裕福でもどっちでもいいし、日本人でも外国人でもどっちでも構わない。アイデンティティなんてものはない。

明日からウニになったとしても、それなりに生きていけると思う。ウニには脳も心臓もないから不安ではあるけど。本当に明日からウニなっても大丈夫かな。人間とウニの遺伝子って7割くらい一緒だとどこかで訊いたことがあるし、なんとかなるっしょ。大丈夫っしょ。

 

 

いまの人生にこだわりがないだけにいままで無限に分岐してきたパラレルワールドのことが気になるときがある。別に戻りたいとか後悔とかそういうものは全くないんだけど。遠い人生を歩んでいる自分がどうしているか、手紙を出してみたくなる。

「拝啓 ある日、突然ウニになった僕へ そちらはどうですか 元気にやっていますか」なんて書いたりして。でもウニにこれ以上伝えたいことなんて何もないな。手紙はこれで終わりです。突然ウニにされた自分がちょっと不憫な気がしてきた。棘皮動物は哀しい生き物だ。

 

 

自分は三陸の景色がとにかく好きだった。特に大槌では色々な思い出があったし、子どものときに大槌で見た景色は大切な原風景になっている。

あのまま大槌に住んでいたら自分はどうなっていたのだろう。思春期を別の場所ですごして10代になって地元を捨てるように東京に出てきたけど、もしも大槌に住んでいたらそのまま一生涯そこに暮らしていたのかもしれない。田舎の狭いコミュニティで生きている自分はなかなか想像がつかないけど、案外上手くやっていけるのかもしれない。中卒で漁師か土木作業員になるのも悪くない。そんな人生もいいな。

これまでの自分は文学に救われて生きてきたけど、もしも文学が救いとなるような環境じゃなかったら、もしくは文学以外に救われていたら、小説なんて読まなかったのかな。たとえ身体はウニになったとしてもたまに本を読みたいな。あの黒いトゲトゲを手みたいにして。

 

 

‪しかし、大槌に住み続けているパラレルワールドのいまの自分はもう何処にもいない。自分の住んでいた場所は玄関を開けたらすぐに大きな海が見えるような場所だった。

2011年、震災後に訪れたときに自分が見たのは、過去に住んでいた場所や、よく遊んだ場所ではなくてただの瓦礫の山だった。大槌はあの地震津波でいちばん被害のあった町のひとつだった。あのとき、自分が大槌のあの家にいたらきっと死んでいただろう。とてつもなく寂しくて、異様な光景で、なんだか分からないけど悲しいのに笑ってしまいそうだった。大槌に住んでいるパラレルワールドの自分は死んでしまった。それでも自分がもしもその世界線にいて津波ですでに死んでしまったとしても、それはそれで良かったんじゃないかと思っている。亡くなったひとには失礼なのかもしれないけど。自分にとっては、殺されてもいいと思えるくらい三陸の海は尊いものだった。こんな言葉あまり使ったことがないけどいまでもすごく愛している。

 

 

‪まあ、なんだかんだと言っても、いま自分はクラゲの死体でもウニでもない、地元を持たず根なし草みたいに東京であくせくと生きている人間なので、そろそろ現実の生活に戻らないといけない。ポケットにできるだけたくさん三陸の石を詰めて帰って、お土産としてみんなに配ろうと思っている。‬

 

 

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